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イントロダクション
92年発表の最高傑作「Mecca And The Soul Brother」から2年後の94年に発表された「The Main Ingredient」
この2年間でPete Rockは原曲を超えるリミックスを量産。周囲の期待が高まった中で発表されたこのアルバムでした。
この投稿では、ビートメイキングや機材からみたこのアルバムについて深く掘り下げたいと思います。
まずはSample Breakdownで全曲のサンプルとビートを聞いてみて下さい。
サンプラーSP1200(E-mu)による緻密な作り込み。
1stのMecca〜と比較すると地味なネタ使いが多いThe Main Ingredientですが、派手さがない分、緻密な作り込み(妥協ないSkitやOutro)、構成から、何度も針を落としたくなるアルバムです。
SP1200でサンプリングされたビートが耳に心地良い。
フロッピーディスクでデータ管理する、SP1200とは?
1987年にE-mu社より発表されたサンプラー。サンプリングレートは「12bit」。フロッピーディスク内蔵でドラムサウンドのデータ管理します。
当時の一般的なフロッピーディスクの容量は、1.44MB(メガバイト)。この容量で1つのビートを制作していたと思うと、現在は何て大容量に溢れているのだろうと感じます。
SP1200のサンプリング時間はたった10.5秒。そのため、ターンテーブルを33回転から45回転で早回ししてサンプリング。その後SP1200のピッチシフターでピッチを落として秒数を稼いでいました。ピッチを落とした時に発生するエイリアシングが Pete Rock特有のサウンドを意味しています。
これは↓貴重なPete RockがSP1200を使ってピッチダウンする様子。
エイリアシング (aliasing) が発生するピッチシフト
折り返し雑音 (エイリアシングノイズ)
こちらでピッチダウンした時に生じる心地良いノイズはエイリアシング(aliasing)とも言われていいます。
折り返し雑音 ( おりかえしざつおん 、 英: folding noise)またはエイリアシング(英: aliasing)とは、統計学や信号処理やコンピュータグラフィックスなどの分野において、異なる連続信号が標本化によって区別できなくなることをいう。 エイリアス(aliases)は、この文脈では「偽信号」と訳される。信号が標本化され再生されたとき、元の信号とエイリアスとが重なって生じる歪みのことを折り返しひずみ(英: aliasing distortion)という。折り返しひずみのことをエイリアシングまたは折り返し雑音ということもある。
Wikipediaより
Wikiを読んでもあまりしっくりきませんが (苦笑)、古いサンプラーを通した時に発生する特有のノイズとも言いましょうか。また、音程を変更してもSP404 (など通常のサンプラー) のように音質が下がっていくのではなく、よりサンプル音がねっとりとクリーミーにとろけるイメージです。
それはサンプル音のダイナミックレンジが広がるように感じたり、ヴィンテージ感が生まれるような変化。この艶っぽい質感がとてもLofiヒップホップとの相性が良いです。
こちらは↑よくあるブレイクビーツをSP1200でピッチダウンしていくのですが、最後の55秒あたりからドープなBoom Bapビーツに激変!
Pete Rockの実弟 Grap LuvaによるSP1200ビート。
SP1200関連でぜひみてもらいたいのがこちら↓ Pete Rockの実弟でありINIのラッパーでもあるGrap LuvaによるSP1200ビーツ!安価な3.5インチ・フロッピーディスクを漁りながら、黒いビートが連発する神動画です。
往年のPete Rockサウンドが炸裂!やはり、元祖ヴィンテージサンプラーとして頂点に君臨するSP1200で作るサウンドは格別だと思います。
しかしながら、中古市場でも毎年のように値段が上がっていくSP1200。
Lofiヒップホップという言葉が一人歩きしている以上、今後もSP1200は値上がりしそう。
SP1200をエミュレートする音楽ソフトが登場!
実機であるSP1200を購入を狙うよりも、Low Hiss社が開発しているSP1200をエミュレートした音楽アプリ「eSPi」が今後DAWのプラグインとして扱われること (VST) にも期待してみましょう。今のところアプリでも十分良い完成度です!
Low Hiss社の『eSPi』 完成度かなり高い!今後に期待しています。
サンプルネタは1970年代が中心!
さて、アルバムに話を戻します。
Pete Rockのサンプルネタは、1970年代が多いです。父親から譲り受けた莫大なレコードがサンプルネタになっているというエピソードがあります。その時に使っていたミキサーでしょうか?SP1200へ送り込みミキサーも1970年代のものを愛用しています。
Pete RockがSP1200に繋げていたヴィンテージミキサー
1990年代にHIPHOPの黄金時代を気づいたPete Rock。彼のインタビューでレコードからサンプリングをするときはヘビーな音にするために、最新の優れたミキサーではなく、古いミキサーを使うと答えています。
この1976年製のこのヴィンテージミキサーは『The Main Ingredient』の裏ジャケに写っていることでも有名。
当時のPete Rockは古いミキサーを通して汚れたサンプル音をSP1200に送り込み、ピッチシフトさせてエイリアスノイズをかけていったのでしょう。
まとめ
幼少期に家でかかっていた耳馴染みある楽曲などを、自身が大きくなった時に当時のミキサーを使いならが、サンプリングして全く新しい形で世に問う。まさに、『The Main Ingredient』はブラックミュージックに包まれたHiphopの金字塔。