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ポリリズム(Polyrhythm)とは?
拍の一致しないリズムが同時に演奏されることにより、独特のリズム感が生まれる。世界各国の民族音楽にもみられる。
(Wikipediaより抜粋)
と言われています。
複数の周期でリズムを掴めることは、ボディムービングの軸をずらすことが可能なため、楽器を演奏する方はもちろん、ダンスやジャグリングをよりグルービーに魅せるためのメソッドになります。習得しておけば一生の武器になると言われています。
特にミュージシャンの方にとっては、楽曲を2つの拍子で捉える”バイリンガルのスキル”を装備することで、使い古されたフレーズでも”新鮮さ”を与えてくれます。
語学におけるバイリンガル脳とはどのような状態でしょうか?それは言語Aから言語Bへと脳内で翻訳しているのではなく、2つ同時に鳴っている状態のこと。
– Develops two linguistic codes simultaneously with a single set of concepts.
– 2つの言語コードを1つの概念体系の元に同時に発達させる。
バイリンガル脳の特異性 (1分15秒〜)
ポリリズムがナチュラルに生まれている場所には、プレイヤー自身が幼少期に複数の民族集団(ethnic group)の中で育つ環境があった、と推測できます。
しかし、今まで第二言語を学ぶ幸運に恵まれなかったとしても、、、Never Too Late !!
ポリリズムにおいても、音の構造を理解した上で十分にトレーニングを積めば、2つのリズムを同時に感じて、奏でることが可能です。
それでは、壮大なポリリズムの旅に出発しましょう。
ミュージシャンが押さえておく3つのリズム
Jazz Pianoレッスンを配信しているJulian Bradley講師のチュートリアル。彼は理論よりも耳でのトレーニングを重視した講座を心掛けているようです。
より深く学びたい方は彼が運営する”The Musical Ear(英語)”を受講してみてもよいでしょう。今回のポリリズムレッスンは無料開放している講座からです。
それでは、3つのリズムを1つずつ練習していきましょう。Julian講師はコード進行と一緒に説明してくれていますが、ここではリズムだけに注目します。膝を両手で叩くことで、まずポリリズムの音を知りましょう。
1st Rhythm : 2拍3連 – 3拍2連(初級)
ベースとなるのは3連符×4つで構成されているリズム。
(タタタ、タタタ、タタタ、タタタ)
もう片方の手では8分音符2つ(2連符)× 4つが交わります。
(タッタッ、タッタッ、タッタッ、タッタッ)
「タタタ」と「タッタッ」がクロスされたのが2拍3連です。
「拍の頭は右手も左手も同じ」ということ意識したら簡単にとれるかもしれません。
上の動画は数学者でポリリズム研究家でもあるRobert Walker博士によるバウンスメトロノーム。視覚化すると格段にわかりやすくなりますね!構造を理解するには最適です。
3:2ポリリズムビート BPM80が30分間続きます。リズムを叩き込むための練習用にどうぞ!遅いBPMで構造を意識し、リズムキープすることが上達への近道。
ポリリズムが初めての方は、まず打点の位置関係を正しく頭に入れる必要があります。飽きるぐらい聞き込みましょう。
3連符を中心に聴くのか、8分音符2つ(※2連符)を中心に聴くのかで、身体の揺らし方が変わってきます。どちらで見るとどちらかが見えにくくなるのは「だまし絵」や「トリックアート」に似ています。
慣れてきた方は、3連符の頭を抜いたり(ンタタ)、真ん中を抜いたり(タンタ)、最後を抜いたり(タタン)、ミュート(ンンン)をつけることでバリエーションを増やしましょう。さらに余裕があれば強弱をつけて気持ち良いフレーズを組み立てていきましょう。
ハンドパン(Handpan)でとても多用されているリズムの一つ。レジェンド楽曲『Hang Massive – Once Again』のイントロでも2拍3連がベースになっています。
2nd Rhythm : 4拍3連 – 3拍4連(中級)
ベースとなるのは3連符×4つで構成されているリズム。
(タタタ、タタタ、タタタ、タタタ)
もう片方の手では16分音符4つ(4連符)×4つが交わります。
(タタタタ、タタタタ、タタタタ、タタタタ)
「タタタ」と「タタタタ」がクロスされたのが4拍3連です。
Robert Walker博士によるバウンスメトロノーム4:3です。BPMが遅いため構造を理解するには最適だと思います。
4:3ポリリズムビート BPM90が30分間続きます。練習用にどうぞ!
同じように慣れてきた方は、3連符と16分音符4つ(4連符)の打点のオンオフを操ってバリエーションを増やしてフレーズ作りに取り組みましょう。
こちらの動画↓が4:3のポリリズムはこちらの動画の解説が一番分かりやすかったです。
英語圏において 4:3のポリリズムは Pass the stinking butter ! という掛け声がはまるそうです。リズム習得には合言葉が大事ですね。
4:3は汎用性の高いリズム。欧米のダンスミュージックに多く見られます。よりベースラインに注目したこちらの動画をどうぞ!
3rd Rhythm : 4拍5連 – 5拍4連(上級)
5連符は密集するのでタイムストレッチを長く考えてみましょう。
4拍4連のリズム(1234, 2234, 3234, 4234)の上に5連符(タタタタタ)を乗せます。
Julian講師のようにまずは膝を叩いてリズムを頭に叩きこみましょう。拍の違うリズムが同時に進行していき、ある周期でカチっとハマる感覚を身につけるのです。
「5連ビート」と「5拍子の楽曲」
5連符を意識した「4拍5連ビートメイキング」や、5拍子を意識した「5拍4連の楽曲」は近年とても注目されています。
私が一番最初に衝撃を受けたのは2005年に発表されたRei Harakami氏の傑作アルバム『Lust』
『Grief & Loss』は曲中に5拍子のキックやハイハットが入り乱れて拍子感覚が掴みずらい。クライマックスでは誰でも5拍子で身体が動くような構成。5拍子の楽曲です。
最近ではチリ出身で今は欧州で活躍するビートメーカーFLAKO(フラコ)氏。このビートは4拍子なのですが、1拍を5つに割った5連符が使われています。4拍5連ビートは普段耳にする4拍4連よりも脱力感があり、綱渡りをしているような浮遊感があり中毒になりますね。
またジャズピアノ界ではポーランド出身のSlawek Jaskulke(スワヴェク・ヤスクウケ)氏。バルト海沿岸出身の彼が「海」をテーマにしたアルバム『Sea』からは5拍子としてもとれる曲が満載。
リズムを口ずさみ、丸いケーキを脳内でカット
と言ってもやはり難しいポリリズム。リズムを掴むことすらも最初は苦労します。
コツはリズムを単語で口に出して身体に染みこませることです。(例えば、3等分ならタ・ナ・カ、4等分ならカ・ワ・サ・キ、5等分ならセ・タ・ガ・ヤ・クなど)
また何等分に切り分けようが、1小節や1拍は同じということを念頭に置きましょう。繰り返しになりますが、「拍の頭は右手も左手も同じ」ということ意識することが大事です。
丸いケーキを思い浮かべ、それを3等分するのか、4等分するのか、5等分するのかをイメージしましょう。
1つの丸いモノを偶数カット(2等分<8分音符>・4等分<16分音符>)はそこまで難しくないかもしれません。
しかし、奇数カット(3等分<3連符>・5等分<5連符>)は整数で割り切れない数字なので難しいです。(*5は割り切れる奇数<1/5は0.2>のため、3よりも安定感あり)
モダンポリリズムへ案内状
如何でしたでしょうか?ポリリズムは奥深く面白いですよね。
今回ポリリズムについて講義してくれたJazz PianoのJulian Bradley講師や数学者のRobert Walker博士はオーソドックスで教科書的なポリリズムでした。
しかし、今回本稿で一番紹介したいのが、TBSラジオ「粋な夜電波」のパーソナリティであるジャズミュージシャンの菊地成孔氏が配信しているニコニコ動画有料チャンネル「ビュロー菊地チャンネル」の「モダンポリリズム講義」です。
菊池氏曰く、欧米圏で語られるオーソドックスなポリリズムはクロスリズム(Cross Rhythm – 交差拍子)と呼ばれるものであって、ポリリズムではないと指摘していました。(クロスリズムとは、整数同士で綺麗に合わさったもの。)
アフリカのストリートで生まれるお祭り「ドゥンドゥンバ(Dunungbe)」をみてみましょう。
複数拍子がブンブン飛び回り、拍子がグニャグニャ変化しています。
ベースになっているのは5連符(ドンタンタ、ドンタンタ、ドンタンタ、ドンタンタ)がブレずに続き、その上にジャンベのソロが3連(または倍速の6連)で入ったり、16分(4連)の頭拍抜きで入ったり、と自由自在。
菊池氏曰く、ポリリズムは「ぶわーっと虫が飛んでいる」状態。予防接種(講義)を受けて視界を明快にする必要があるといいます。
モダンポリリズム第11回は「3拍4連 – 4拍3連」の解説が無料開放されています。
講義の後半(29分30秒〜)には最初の壁「4拍4連の楽曲を3拍子に組み直すメソッド」を公開しています。
課題楽曲はPOP ETC – ‘Live It Up’
余談ですが、私はこの講義の後に、踏切で遮断機が降りてくる音「カーン、カーン、カーン、カーン」が「カーンッカ、ンッカーン、ンカーンッ」と中南米クラーベのフレーズとも聞こえるようになってしまいました。街で流れているBGMを3拍子へ変換するゲームで遊んでいきましょう。
菊池先生は講師としてのキャリアも長く、音大で非常勤講師も長く勤めておられます。また執筆業もされている方でもあるので、目から鱗なこぼれ話にも注目です。
全92回(約46時間)を終えた頃にはアフリカ的ポリリズム(微分系 – 分割してリズムを作る)やインド的ポリリズム(積分系 – 積み上げてリズムを作る)のリズム構造を理解し、気持ち良いビートを習得していることでしょう!